進まないDXを進めよう
- WIZU-Consulting
- 2024年11月8日
- 読了時間: 6分
製造業が直面する課題は多岐にわたります。特に、環境規制の強化や持続可能性への要求が高まる中で、競争力の維持、コスト削減、サプライチェーンの最適化が一層重要になっています。
しかし、デジタル化の進展が遅れているため、こうした課題の解決が容易ではありません。
デジタルトランスフォーメーション(DX)は、生産効率の向上、持続可能なビジネスの構築、そして市場の変化に柔軟に対応するための鍵です。
多くの方がDXの推進の必要性を認識している一方で、実際の取り組みが進まないという現実に直面しているのではないでしょうか。
この「なぜ進まないのか」という課題を共に理解し、DX推進に向けた具体的な方法について議論していきたいと思います。

日本企業においてDXが進まない理由は、次のようなものではないでしょうか。
「よくわからない」「経営トップの方針が抽象的で理解しにくい」「協力が得られない」「失敗の責任を自分が負わされるかもしれない」など——心当たりがある方も多いかと思います。
こうした理由は一般的に「現状維持バイアス」と呼ばれます。さまざまな心理的不安から、未知の世界に踏み出すよりも、現状を維持する方が安全だと考えてしまう傾向です。
日本企業、特に製造業では、過去の大きな成功体験を持つ人が重要なポジションにいることが多く、彼らは現状のやり方が時代にそぐわないと認識していても、その成功体験を手放すことに恐怖を感じています。また、自分の知らないことを受け入れると、自身の存在価値が揺らぐのではないかという不安もあるため、新たな方法を取り入れることに消極的になってしまうのです。
一方で、過去の成功体験がない人であっても、自分の理解できないことが目の前に現れると、「わからない=リスク」と捉えがちです。本来であれば、情報を整理してメリットとデメリットを冷静に判断すべきですが、「わからないこと」への恐怖から、ついネガティブな態度を取ってしまう傾向があります。
このような現状維持バイアスには学術的な裏付けがあり、それを解消するための手段も存在します。DXなどの新たな取り組みを始める際には、こうした心理的バイアスがあることを理解し、不安を取り除くためのアプローチを身につけておくことが重要です。

ここでは、私たちが実践した「現状維持バイアス」を軽減しながらDXを推進する方法をご紹介します。
この企業は上場企業でありながら、いまだに一族経営が残る、いわゆる昭和的な体質を持っています。決して新しい取り組みに否定的ではないものの、検討が長引き、開始までに時間がかかりすぎて最終的には実行に至らないことが多い状況でした。その背景には、完璧主義から大きな構想を描いてしまい、審議に時間がかかったり、費用対効果や責任の問題が持ち上がり、前に進めないという現状維持バイアスがありました。
そこで、私たちは3ヶ月ごとのサイクルで小さな成果物を徐々に出し、社内評価を都度実施して進める方法を採用しました。この方法には以下のメリットがあります。
投資額を抑えながら進められる万が一失敗しても損失額が小さく、経営側もリスクに対する不安が軽減されます。
社内の不安を軽減できる都度成果物を社内で共有することで、机上の議論だけでなく目に見える成果が確認でき、プロジェクトへの理解が深まり、現状維持バイアスが和らぎます。
短いサイクルで進めるためメンバーの緊張感が維持され、生産性が向上する
さらに、私たち外部リソースがプロジェクトに参画することで、プロジェクト運営側と社内メンバー間の直接的な対立や衝突を避けることができるうえ、他社の事例や知見を活用することも可能です。
また、もう一つ重要な観点として、「稼げる」ビジネスモデルを構築することが挙げられます。従来のシステム導入では「コスト削減」が主眼となることが多く、これは日本の製造業の強みでもあります。確かに収益改善に対して即効性があるのですが、その一方で「稼ぐ力」が衰えてきたという問題が生じています。
本来、こうした収益モデルの構築は経営者の役割ですが、過去のコスト削減の経験が豊富な方が経営陣にいるケースが多く、「稼ぐ」ビジネスモデルを作るという観点に弱みがあることも少なくありません。この視点をボトムアップで提唱することは、DX推進において経営層の理解を得やすくし、プロジェクトを円滑に進める要因となります。

先ほど「外部リソースの利用」というキーワードに触れましたが、ここでは、なぜ外部リソースの活用がDX推進に有効なのかを説明したいと思います。
DXプロジェクトに外部リソースを活用することで得られるメリットは大きく3つあります。
客観的な視点からの助言を得られること
不足がちなデジタル人材を補充できること
社内からの批判を受け止める「壁」となること
まず、1つ目の「客観的な視点からの助言を得られること」について説明します。DXを進めるうえで「稼げるビジネスモデル」を構築することが重要ですが、社内にいるとどうしても情報や視野が限られ、的確な企画立案が難しくなります。外部リソースは社内事情には詳しくないものの、多様なクライアントやプロジェクトで得た経験と知見を持っています。彼らと協働することで、社内で温めてきたアイデアに「アイデアの種」を加え、さらに発展させるための助言を得ることができます。
次に、2つ目の「不足がちなデジタル人材を補充できること」についてです。ここでいうデジタル人材とは、単にプログラムやシステムを構築できる人を指しているのではありません。ビジネスや技術の特性を理解し、それをポンチ絵やブループリントに落とし込み、プロジェクト計画に反映できるような企画構想力を持った人材のことです。こういった人材は給与の高低以前に市場に少なく、社員として採用することは容易ではありません。そのため、現状では外部リソースから調達するのが現実的な方法です。
最後に、3つ目の「社内の批判を受け止める『壁』となること」についてです。新しいことを始めると、必ず「抵抗勢力」が現れます。この抵抗は決して意地悪ではなく、現状維持バイアスが強く働いている結果です。抵抗勢力のバイアスを軽減するためには、利害関係がない外部の人間が論理的にプロジェクトの意義を説明し、協力を求めることが効果的です。社員同士だと感情的な対立を招き、職場の人間関係に悪影響を及ぼす可能性があるため、外部リソースを「壁」として活用しつつ、プロジェクトを進めることが望ましいでしょう。

デジタルトランスフォーメーション(DX)は、競争力を維持し、持続可能なビジネスを構築するための重要な取り組みです。しかし、日本企業、特に製造業では、現状維持バイアスや過去の成功体験に縛られ、DX推進が進まないことが多いのが現実です。
私たちのアプローチは、小さな成果物を定期的に出し、社内評価を繰り返す「短期サイクル」を取り入れることで、リスクを抑えつつDXを推進するものでした。また、外部リソースを活用し、客観的な視点や不足しているデジタル人材を補い、社内の不安や抵抗を和らげる「壁」として機能させました。これにより、社内の理解と協力を得やすくなり、プロジェクトを円滑に進めることが可能になりました。
さらに、単なるコスト削減だけでなく「稼げるビジネスモデル」を構築することもDXの成功に欠かせません。こうしたビジネスモデルの提案をボトムアップで行うことで、経営層の理解を促し、プロジェクトが現実の利益に結びつくようサポートすることが重要です。
DXの推進は容易ではありませんが、現状維持バイアスを乗り越え、小さな一歩から始めることで、確実に変化を生み出すことができます。皆さんも、ここで紹介したポイントを参考に、DXの取り組みを加速させてみてください。

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